
「
野上武士先生、『萌えよ! 戦車学校III型』
の発売、おめでとうございます」

「おめでとーございます」

「るあ
も読みました。とても面白かったです」

「さー、それからリスペクト、もしくはインスパイヤされてる私たちもがんばろうか」

「リスペクトとかインスパイヤっていうと何かいやーな感じに聞こえるわね……」

「さて、今回は予定を変更して、ドイッチュラント級の系譜についてやろうと思います」

「系譜?」

「ドイッチュラント級から派生していった艦が各国にあるってのは言ったよね? それを個艦別に扱おうってことさ」

「今回は第9回目のような形式にしたいと思います」

「なお、今回から新しい人が増えるよ」

「うっス、田村ひよりっス。よろしくお願いするっス」

「なんでまた、第11回目にもなって……」

「バランスの問題……」

「ああ……先生役2、補助役1、生徒役3じゃさすがにバランスが悪いってことね……また、ぞろ安直な……」

「まあまあ」

「ちなみに、軍オタ初心者(という設定)っス」

「設定いうな!」

「なお、今回は『
真実一路』さんの記事に多分に影響を受けています。良かったら、そちらもどうぞ」

「正直あっちのが分かりやすいです。そちらを合わせて読むことをおすすめします」

「さて、本題に入る前にまず予習と復習をしようか。主砲の威力を高めようとしたら、どんな方法があった?」

「口径の大型化だよね」

「その通り。でもそれだけじゃないよ」

「他には何があるのよ?」

「砲身の長さを長くすることっスか?」

「ひよりん正解。でも、それ単独じゃ△だね。それがどうしてなのかを知らなくちゃいけないよ。」

「うっス。分かりました」

「主砲の威力を高めるには大きく分けて三つの方法があります。第一に
主砲の口径サイズの大型化、第二に
初速(弾が主砲から飛び出る速さ)の増大、第三に弾の
重量を増やすことです」

「それぞれ、どんな効果があるの?」

「初速が上がればそれによって速度の二条に比例する運動エネルギーが上がる。重量を増やせば位置エネルギー……放物線を描いたときの最大の高さからの位置エネルギーが増加する」

「位置エネルギーは重力加速度×重さ×高さだよね。つまり、重ければ大きいってことだね」

「これらの方法にはそれぞれメリットとデメリットがあるんだ。まず、主砲の大口径化を基準として考えるよ」

「まず、初速を増やすやり方ですが、この方法のメリットとしては射程が延びることが上げられます。また、近距離での垂直装甲貫通能力が上がります」

「デメリットは中距離での水平装甲貫通能力が劣ること」

「どうして?」

「例えばだけど、初速の速い40cm砲と初速の遅い40cm砲があったとするよ。初速が速い方の最大射程を4万メートル、遅い方を3万5千メートルと仮定する。3万メートルを狙って弾を撃った時、最終的に落ちる地点でどっちが落下角度は大きいかな?」

「初速が遅い方……っスよね?」

「その通り。そして落下角度っていうのは大きいほど水平装甲貫通能力が大きくなるんだ」

「キャッチボールの図を思い出してくださいね」

「なるほどー」

「また、初速を早くすると弾がブレやすくなります。結果的には散布界……弾が落ちる所の狙った中心点からのバラつきが大きくなり、命中率が悪くなります」

「ひよりんのいった砲身を長くするというのはこれだよ」

「なるほどっス」

「どうして砲身を長くすることが初速を増やすことに繋がるの?」

「砲身が長ければ火薬によって弾を押す時間が長くなるからさ。つまり、より長い時間力をかけられるってこと」

「ふむふむ」

「なるほど……」

「最後に弾の重量化……デメリットは射程が延びないこと。重い弾を使うわけだから同じ初速なら放つ物体が重いほうが届く距離が短いのは当然」

「メリットは運動エネルギーが落ちないことかな」

「運動エネルギーは重さ×速さ×速さよね」

「そう。速さってのは空気抵抗や弾同士の干渉で遅くなったりするからね。運動エネルギーを速さに依存すると威力も落ちやすいんだ。でも、重さってのは変わらないから威力は落ちない」

「つまり、弾は飛ばないけどその分威力は上がるってことね」

「そのとおり」

「このことを踏まえて今回の授業はいきますよ」

「これは頻繁に出てくるから今回以外でも大事だよ」

「わかりました」

「覚えておくわ」

「さて、まずはドイッチュラント級装甲艦です」

「この手の軍艦の始祖だね。まずはドイッチュラント級戦艦がどうして作られたのか考えてみようか」

「通商破壊戦を繰り広げるためではないんスか?」

「残念ながら違うよ。それは結果的にそうなっただけ。そう誤解してかいてある資料も多いみたいだけど、ドイッチュラント級装甲艦が通商破壊戦に用いられたのは飽くまでそう使ってしまっただけで、元の狙いは違うんだ」

「ちなみに通商破壊戦とは、相手の通商路……商戦などが通る回路で商戦の撃沈・拿捕をする方法で、意味合い的には兵糧攻めと同じです」

「ふむふむ」

「それじゃあ、どうして、2万浬なんて馬鹿みたいな航続距離を持っていたんスか?」

「私も気になるわね。どう考えても過剰でしょ」

「それはね、ドイツの艦艇が少なかったことに起因するんだよ」

「どゆこと?」

「例えばある海域で戦闘が発生したとするよ。すると、その場に居ない軍艦はなす術が無いわけだよ」

「まあ、それもそうよね」

「でも軍艦が最高速度でかっとんでいけば戦場について戦況に寄与することが出来るかもしれない。つまり、ドイッチュラント級には速力最大で海域のどこにでもいける能力が求められたんだ」

「つまり、
26~28ノットで北から南へ、南から北へと向かえる能力がもとめられたってこと?」

「あるいは、
最大速力で他国の戦艦の航続力と同等のものが欲しかったということっスか?」

「その通りです。10ノットで2万浬という化け物みたいな航続力は飽くまでオマケに過ぎません」

「
一隻で二隻、三隻分の活躍をできる艦ってわけね」

「良く考えてみなよ。ドイツが通商破壊戦しかける相手がどこにいる?」

「えーっと……イギリスとか……」

「イギリスは戦力差がありすぎて論外だよ。となると隣国のフランスやポーランドになるんだけど陸続きの相手に海路で通商破壊戦をしかけても効果は薄い」

「通商破壊戦は長期戦向けで短期戦には向かない戦法」

「そして長期戦になれば戦力が限られているドイツは片方に攻めている間にもう片方から攻められる危険性がある。仮に戦争になったとしてド イツには短期戦しか方法はない。つまり、通商破壊戦をしかける相手がいないんだよ」

「なるほどっス」

「で、ドイッチュラント級装甲艦が作られた理由は何なわけ?」

「ドイッチュラント級装甲艦が主敵としていたのは第一に北欧の海防戦艦、第二にソ連・フランスの弩級戦艦、第三に他国の条約型巡洋艦だったんだ」

「なお、それぞれの大まかな能力を下に書いておきますね」
艦名 |
艦種 |
国 |
排水量 |
速力 |
主砲 |
舷側装甲 |
甲板装甲 |
スヴェリエ |
海防戦艦 |
スウェーデン |
7820t |
22.5ノット |
28.3cm砲4門 |
203mm |
50mm |
ノルゲ |
海防戦艦 |
ノルウェー |
3645t |
16.5ノット |
20.8cm砲2門 |
152mm |
51mm |
イルマリネン |
海防戦艦 |
フィンランド |
3900t |
16ノット |
25.4cm砲4門 |
55mm |
20mm |
ニールス・ユール |
海防戦艦 |
デンマーク |
3800t |
16ノット |
15cm砲10門 |
195mm |
不明 |
ガングート |
戦艦 |
ソ連 |
23360t |
23.4ノット |
30.5cm砲12門 |
229mm |
76mm |
クルーベ |
戦艦 |
フランス |
21400t |
21ノット |
30.5cm砲12門 |
270mm |
110mm |
デュケーヌ |
重巡洋艦 |
フランス |
10000t |
33.5ノット |
20.3cm砲8門 |
50mm |
20mm |
ロンドン |
重巡洋艦 |
イギリス |
9500t |
32ノット |
20.3cm砲8門 |
111mm |
76mm |
カフカズ |
重巡洋艦 |
ソ連 |
7440t |
29.5ノット |
18cm砲4門 |
76mm |
25mm |
トレント |
重巡洋艦 |
イタリア |
10500t |
35ノット |
20cm砲8門 |
70mm |
50mm |
ドイッチュラント |
装甲艦 |
ドイツ |
11700t |
26ノット |
28.3cm砲6門 |
60mm |
40mm |

「こうして見ると装甲艦の奇抜さというか中途半端さが際立ってるね」

「装甲はほとんど捨てているけど速力は巡洋艦より遅くて、砲力は弩級戦艦の半分程度。でも、海防戦艦や巡洋艦よりは上……」

「まず、海防戦艦を相手にする場合から見ていこうか。これの場合は負ける心配はほとんどないと思うよ」

「まあ、装甲以外は全部上だしね……」

「速力ってものは以外に重要なものなんだよ。相手が自分より弱敵、または同等の場合は常に有利な位置からの砲撃が可能になるし、相手の方が強敵だったなら逃げる事も出来るからね」

「脅威となるのはスヴェリエぐらいだけど、同じ28.3cm砲でもドイツのほうが射程が長い……つまりアウトレンジ攻撃が可能。それに手数も多い」

「不用意に近づかない限りは負ける心配はない、ってことっスね」

「次に弩級戦艦です」

「これはちょっと勝ち目が薄いんじゃない?」

「確かに単艦ではそのとおりだよ。でも二隻、あるいは三隻なら?」

「それは……負けるのは装甲ぐらいになるね」

「ハナから一隻で勝とうなんてしてないんだよ。二~三隻ぐらいでいっしょに行動して、同じ敵を叩く……もともとドイツではそういう試算をしていたんだ。最終的には三隻しか建造されなかったドイッチュラント級だけど、最初は六隻建造する予定だったしね」

「つまり、勝ち目はあるってこと?」

「ん……勝ち目はあるけど、高くはない、といったところ」

「どうして?」

「まず、装甲という面が一点。極端に装甲が薄いから一発で轟沈、なんて自体もありえる。対して、相手の弩級戦艦の方はドイッチュラント級の主砲が若干威力に劣る28.3cm砲であることも起因して轟沈なんてことはまずない」

「まあ、それもそうね」

「そして第二に、条約型巡洋艦の存在だね」

「え? どういうこと?」

「よし、それじゃ条約型巡洋艦を相手にするときのことを考えてみようか」

「これは、一番装甲艦に近い能力ね……速度で圧倒的、主砲はサイズは劣るけど砲門数が多い、装甲は同等……」

「まず、相手の方が速力が速いから弩級艦や海防戦艦のときと違って常に有利な位置で戦えない。つまり、アウトレンジ攻撃(相手の主砲の射程外から一方的に攻撃をする方法)がとれるかどうか怪しい」

「つまり、威力に勝るだけで、装甲は下手すれば条約型巡洋艦より薄いから相打ちになりえるってこと?」

「そういうこと」

「つまり、ソ連やフランスは条約型巡洋艦(もしくはそれに近いもの)を保有している。戦艦どうしが単艦で決戦することなんてマズないから、条約型巡洋艦を持っている相手の方が圧倒的に有利……弩級戦艦に対する勝ち目が薄いってのはそういうことさ」

「相手が恐れて逃げ出したらともかく、逃げずに突っ込んできたらなすすべなし、ってことね」

「もちろん、近づかれる前に沈めればいいんだけどね。現実はそうも甘くないのさ」

「さてドイッチュラント級装甲艦にはじめに対抗した艦。それがこのダンケルク級戦艦です」
(アイコンなし)
ダンケルク級戦艦
基準排水量:26500t
満載排水量:35500t
全長:215.1m
全幅:31.1m
出力:112500馬力
速力:29.5ノット
航続距離:7500浬/15ノット
装甲:舷側225mm、甲板125mm、主砲塔前面330mm、主砲塔側面225mm、バーベット340mm、司令塔269mm
兵装:50口径33cm4連装砲2基、45口径13cm4連装高角砲3基、同連装砲2基計16門、60口径37mm連装機銃4基8門、70口径20mm機銃32門、水偵4機、カタパルト1基

「ところで、戦艦の大まかな定義は覚えてるかな?」

「その国で一番強い艦……だよね?」

「そう。そして強い艦っていうのは火力があってそれに対する対応防御ができていることが条件」

「ところが、ダンケルク級は(この時点で)フランス最強艦じゃないんだ。すでにブルターニュ級戦艦という34cm砲を積んだ超弩級艦が居たんだよ」

ブルターニュ級戦艦
基準排水量:23230t
満載排水量:27340t
全長:165.8m
全幅:27m
出力:43000馬力
速力:20ノット
航続距離:4700浬/10ノット
装甲:舷側261.6mm、甲板58.4mm、主砲塔前面400mm、バーベット254mm、司令塔315m
兵装:45口径34cm連装砲5基10門、55口径13.9cm単装砲10門、10cm単装高角砲7門、45mm機銃2門、水偵1機、カタパルト1基

「こうして見るとブルターニュ級の方が主砲のサイズは大きいし、装甲も上。装甲が対応防御だと考えると威力で新型の33cm砲が勝っているとも考えづらいね」

「つまり、ダンケルク級は最強じゃないってこと?」

「そう。極端なことを言えば、
ダンケルク級戦艦は戦艦じゃない」

「ははあ……」

「ダンケルク級は戦艦というよりは
パワーアップした巡洋艦……そうみなすべきでしょうね」

「ダンケルク級の特徴はまず主砲を前面に集中させたこと」

「珍しい形だね」

「この形なのはあとはイギリスのネルソン級戦艦しかありません」

「大和も最初はこういう形にする予定だったんスよね」

「そう。でも大和ではデメリットのほうが大きいとされて不採用になっている」

「この方法のメリットとデメリットは?」

「まず、メリットは重量が軽くなることかな。一番守らなくてはいけないところを集中させるわけだから装甲を節約できる」

「また、前方火力が大きいため高速で走り回り敵を封じ込めるには最適です」

「デメリットはその逆だね。つまり、後ろに撃てない」

「巡洋艦とかに後ろから近づかれたら弱いってこと?」

「そうだね。でも、ダンケルクは前方の主砲の撃てる角度が広いんだ。つまり、真後ろ以外ではだいたい対応できるようになってる」

「ほかに特徴といえば……」

「4連装砲の採用。メリットは砲塔重量を軽くできること」

「連装砲2基より4連装砲1基のほうが軽いということです」

「さっきと同じで装甲にまわす分の重量が軽減できるってわけだよ」

「そういえば、どこの国でも4連装砲を採用している国はなかったわね」

「アメリカで6連装砲なんてバカみたいな主砲を採用しようとしたときもあったけどね。
4連装砲ってのは技術的な冒険なんだよ。実際、イギリスで4連装砲を採用したキングジョージⅤ世級戦艦は故障が多発して大変だったみたいだよ」

「じゃあ、ダンケルク級もそうなったの?」

「ところがそうはならなかった。なぜならダンケルク級の4連装砲が
連装砲を繋げた4連装砲だったからさ」

「どういうこと?」

「連装砲を繋げた4連装砲は純粋な4連装砲より防御間隔が広くなる。つまり直接防御は普通の4連装砲より甘くなる」

「勿体無いね……」

「悪いことばかりじゃないんだよ。4連装砲ってことは一つ砲塔が潰されると一気に火力が半分になることを意味している。砲塔と砲塔の間に一発食らえば両方が使えなくなる危険性すら孕んでいるんだ」

「危ないのね……てか、折角装甲を増やしたのにそれじゃ……」

「連装砲塔を繋げた4連装砲の場合はこの危険性がずいぶん小さくなるんだ。つまり、4門中2門を犠牲にしても2門を使うことができる可能性が増える。それに砲塔どうしの間も空いてるから両方が同時に使用不能なんて状況には陥りがたい」

「つまり、
ダメージを食らったときのことを考えた砲塔なのね」

「そのとおり。それに、
故障もずいぶん少ないんだよ。連装砲はどこの国でも採用していたスタンダードなものだからね」

「技術的冒険と基本の応用がうまくかみ合い、結果的に成功作になったいい例なんスね」

「なお、ダンケルク級はドイッチュラントに対抗するために生まれたという説もありますが、フランスが独自に通商破壊戦を行おうとしていたというせつもあります」

基準排水量:32358t
満載排水量:38700t
全長:235.4m
全幅:30m
出力:163000hp(最大)
速力:31.5ノット
装甲:舷側170~350mm、甲板50~105mm、主砲塔前面360mm、主砲塔側面200mm、主砲塔天蓋180mm、バーベット280~350mm、司令塔220~350mm
兵装:54.5口径28.3cm3連装砲3基、55口径15cm連装砲4基、同単装砲4基計12門、65口径10.5cm連装高角砲7基14門、83口径37mm連装機関砲8基16門、20mm機銃10門、水偵3機、カタパルト1基

「で、そのダンケルク級に対抗しようとドイツが作ったのがシャルンホルスト級巡洋戦艦だね」

「ああ、
ヘボ戦艦っスね」

「ヘボなの?」

「ヘボな理由は説明するけど、ヘボなのは間違いないね」

「どうしてヘボなの?」

「主砲が原因」

「主砲……28.3cm砲だからドイッチュラント級と同じね」

「シャルンホルストは当初38cm砲を積む予定だったんですが、生産が間に合わなくず、結局ドイッチュラント級と弾が共有できる28.3cm砲を積むことになったんです」

「でも、ドイッチュラントに比べて砲身長が長いっスね。ということは射程と威力が大きいということっスよね?」

「そう。ただし、それは物事の一面」

「どういうこと?」

「
射程が長いということは、射程の中~近距離での落下角度が小さいことを意味する。シャルンホルストの主砲の最大射程は40930メートル……大和に匹敵するほど遠い」

「でも、それは中距離……
2万メートル前後での水平装甲貫通能力が小さくなることを意味するんだ。落下角度が小さくなるからね」

「じゃあ、遠距離で戦えば?」

「遠距離だと今度は28.3cm砲弾なんて中途半端さが災いする。このサイズの弾の重量は小さいからね。打ち上げた後の重力による最加速が小さくなって
威力は落ちるんだよ。オマケに、さっきいったように初速が速いと命中率が悪くなるしね」

「つまり、シャルンホルストの有利なところは近距離しかないってこと?」

「そう。実際、近距離ならシャルンホルストの28.3cm砲は38~40cm砲に匹敵する能力なんだ。そして射程も46cm砲に匹敵する。問題は両者がそれぞれ独立していて、どちらかを取るとどちらかを捨てなければいけないって点なんだ」

「つまり、
遠距離だと威力におとり、
威力を取ると自分に不利な近距離戦しかない、と……」

「その通り。とはいっても、38cm砲に換装する予定だったんだけどね。そうなれば充分に使えるになったとは思うよ」

「28.3cm砲に38cm砲と同じ能力を求めることがそもそも無理、ってことね……」

「シャルンホルスト級の不幸……それは主砲の生産が間に合わなかったことにあるといっていいでしょう」

「さて、次は太平洋方面に入るよ。まずはアラスカ型大型巡洋艦だ」

基準排水量:27000t
全長:246.46m
全幅:27.7m
吃水:9.72m
出力:150,000hp
速力:31.5ノット
航続力:12000浬/15ノット
装甲:舷側229mm、甲板102mm、主砲塔325mm、バーベット279~330mm、司令塔254mm
兵装:50口径30.5cm3連装砲3基9門、38口径12.7cm連装高角砲6基12門、56口径40mm4連装機関砲18基72門、70口径20mm機銃34門、水偵4機

「アラスカ級大型巡洋艦はドイッチュラント級装甲艦、シャルンホルスト級巡洋戦艦、日本の秩父型大型巡洋艦の対抗馬として生まれました」

「ヘボ戦艦なのに?」

「ヘボ戦艦でも通商破壊戦に使われたらやっかいだしね。それにシャルンホルスト級巡洋戦艦はドイッチュラント級装甲艦と違って対重巡洋艦としては充分な性能を持っていたんだよ」

「それに1930年代のアメリカの戦艦郡は軒並み20~23ノットと低速でした。シャルンホルストやドイッチュラントと遭遇しても逃げられる可能性が大きくなります」

「なるほど……ところで秩父型大型巡洋艦って?」

「B-64型大型巡洋艦のことっスか?」

「ひよりんのいったB-64型については次に説明するよ。でも、それじゃあない。アメリカは日本でもシャルンホルストのような小型戦艦(もしくは大型巡洋艦)を建造中だと思っていたんだ。ただ、これは情報自体が間違っていて、寧ろアラスカの情報から日本が大型巡洋艦を建造したぐらいなんだ」

「案外マヌケだったんだね。アメリカって」

「それだけ、情報戦は難しいということですよ」

「これの特徴はとにかく
『長い』ことかな」

「『長い』? 『大きい』じゃなくて?」

「そう。たとえば、全幅が33.1mの扶桑は全長は212.8mだし、全幅が34.6mの長門は全長が224.5mしかない」

「扶桑や長門のほうが普通なんだよね?」

「そうだね」

「となるとアラスカはホントに細長い艦なんだね」

「長いと何か悪いところがあるの?」

「メリットとデメリットがあるね。まず、メリットとしては
足が速くなること。同じ長さで同じ出力なら幅が短い方が速力が大きくなるんだ」

「まあ、それは判るわ。抵抗の関係よね」

「逆にデメリットは、
操舵性・凌波性が極端に悪くなること。つまり、海が荒れるとグラグラと動揺することになるんだよ」

「また、
直進性が良すぎるので舵の効きも悪くなります。このため、艦隊行動がとりにくい艦となりました」

「
安定性が悪いから砲撃の時も艦が同様して狙いが付けにくい。それに
砲撃時の艦の揺れも大きくなるから、散布界も悪くなる。細長いから
砲塔間の距離が空いて、これも散布界が悪くなる原因になる」

「こりゃまた……デメリットの方が多いじゃないの」

「問題児なんだね」

「問題児なんだよ。主砲は優秀なんだけどね。こういう目に見えないスペックが悪いから」

「良くアラスカはその中途半端な性能ゆえに活躍できなかったと聞きますが、活躍できなかった理由はその目に見えない性能だったのではないかと思いますね」

「じゃあ、どうしてこんな半端な艦を作ったの?」

「日本の重巡洋艦に対抗するためだよ。日本は雷装を重視していたから重巡に61cmという大口径の魚雷を採用していたんだ」

「対するアメリカは雷装をしていない艦のほうが多かった。これはアメリカが重巡を偵察戦力とみなしていたため」

「つまり同じ巡洋艦なら日本のほうが強い?」

「単純に考えればそっスね……」

「つまり、日本の重巡洋艦に対抗するのにアメリカの重巡洋艦じゃ力不足だったわけ。で、それが理由で完成したのがアラスカだったってわけさ」

「アラスカは当初の目標こそ達することができませんでしたが、その高速性と高い対空能力を活かし空母の護衛として活躍しました」

「さあ、最後は日本の艦だよ」

「ただし、これまでとは違い未成艦ですがけどね」

超甲巡(B64型大型巡洋艦、795号艦)
基準排水量:32000t
全長:244.6m
全幅:27.2m
吃水:8.8m
出力:170000hp
速力:33ノット
装甲:舷側190mm(傾斜20mm)、甲板125mm、主砲塔天蓋70mm
兵装:50口径31cm3連装砲3基9門、65口径10cm連装高角砲8基16門、60口径25mm3連装機銃4基12基、76口径13.2mm4連装機銃2基8門、61cm4連装魚雷発射管2基8門、水偵3機、カタパルト1基

「超甲巡……なんだかカッコいいね」

「甲巡ってのは重巡洋艦のことだよ。ちなみに、乙巡と丙巡が軽巡洋艦。つまり、超甲巡ってのは重巡洋艦以上の巡洋艦って意味があるのさ」

「ふーん」

「大和の配置に似てるっス」

「そうだね。艦橋の位置、主砲の位置、防御配備、それらが全て大和を参考にされたからね」

「似てるのは当然、ってわけね」

「超甲巡はアラスカに対する対抗馬として生まれたんだ。だけど、他国のこのテの艦とは決定的に違う面が一つある。それがどこかわかるかな?」

「んー……
魚雷兵装っスか?」

「正解。じゃあ、どうして魚雷兵装があるかわかる?」
「えーっと……どうしてだろう?」

「ちょっと……分からないっス」

「それは、超甲巡が飽くまで
重巡洋艦の延長線上にあるからですね」

「どういうことっスか?」

「条約型巡洋艦に求められたのが準主力艦としての役割だった、ってのは言ったよね? 日本が雷装を重視したのは巡洋艦でも戦艦を屠ることが出来るように、ってことなんだ」

「確かに20.3cm砲だけじゃ戦艦を相手取るのはきついわね……」

「でも、20.3cm砲装備で対応防御が出来ていないとなると、戦艦を相手にする前に敵の巡洋艦によって邪魔される……超甲巡は敵の巡洋艦を無視して敵の戦艦を屠れるようにした艦なんだ」

「ちなみにアメリカの重巡洋艦は一時期から雷装を外している……先進性が云々と言われるときもあるけどそれは間違い。アメリカは重巡洋艦を
対軽巡以下として、あるいは
偵察ユニットとしてしか用いようとしなかっただけ」

「じゃあ、他の国のは?」

「他の国のはドイッチュラント級装甲艦が『条約型巡洋艦をつぶせるように』建造したのと同様に、自分より弱い相手を一掃することが目的だったんだ」

「つまり、日本の超甲巡はそれとは違うってこと?」

「もちろん、超甲巡にもそういった役割を与えられています。しかし、それと同時に自分より強い艦に対してもある程度の勝負が出来るようにした艦……それが超甲巡なのです」

「第一次世界大戦の巡洋戦艦から発達した究極の超巡洋艦……それが超甲巡なのかもしれない」

「ちなみに、超甲巡はどうなったの?」

「超甲巡は⑤計画で計画されるんだけど、ミッドウェー海戦で空母が不足したことで重巡、戦艦の優先度は低下して、結局は計画段階で破棄されちゃったんだ」

「なんだか勿体無いわね……」

「さて、次回こそ空母予備艦をやりたいと思います」

「いま気付いたけど、予定通り言ったことってほとんどないよね」

「そういうところは細かいトコは気にしない」

「いや、気にしろよ!」
なお、今回以下のサイトよりアイコンおよび画像を使用させていただきました。
モアイ部さま