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軍事・ヤンデレ・ギャルゲ・音楽・小説などを勝手に
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以前書いた短編をさらします。
中島みゆき嬢の「
囁く雨」という曲をモトネタに。

今度連載でもやろうかなー……でも途中で設定改変とか出来ないのが嫌なんだよな……

読みたい方は続きをどうぞ

 



 あんまりにも呆気なくあいつが地べたに転んだので、私は目が点になった。
 雨が白い飛沫を上げて、あいつの背広をびしゃびしゃと濡らす。傘なんてどっかにいっちまった。あたしも全身ぐしょぬれだけれど、そんなことより。
 そんなことより、あいつが立ち上がらないのが気にかかる。

 別れ話は突然だった。もっともあたしの場合、別れ話はいつでも突然やってくる、と決まっているようなものだった。だからそれを盾に男を責める気なんてのは、はなから無い。
 場所は二人が最初にデートをした喫茶店。二人で通った大学近くのこんな場所に、三駅も離れた職場に通うあたしをわざわざメールで呼び出すから、あたしはとんでもない勘違いをした。そればっかりは、あたしが悪いわけじゃないだろう。
 付き合いはじめて三年。長く勤める気なんてさらさら無くって決めた職場は、思ったとおり居心地が悪い。
 この前のデートのとき。あいつが、なんとか順調にラインに乗ったよ、そろそろ地方転勤になると思うんだけど、と切り出したときは、だから内心ほっとしていた。
 寿印のない退職なんてとても考えられなかったけど、我慢もそろそろ限界、と思い始めていた。
 それでもマンネリになってしまった二人の間で、なにを契機に結婚に踏み切ればいいのだろう、と心配でならなかったからだ。

――どこに?
――さあ……はっきり内定じゃないんだ……まだ、内示、とか打診、程度の段階で。
――ふうん……北だといいな。
――北ぁ?
――雪の降るとこ、とかさ。
――どうしてさ?
――だって雪が降るとさ、静かだし、汚い物が隠れてきれいになるじゃない?
――でも面倒じゃない?買い物ひとつだって東京にいるのとはわけが違うんだから。雪なんて降ってごらんよ、だいたいお前、雪ん時に車の運転なんてしたこともないじゃん?
――そんなの、毎日のことだったらすぐ慣れるものよ。
――またまたぁ……
――あ、でも南だったらいやだ、とかそういうんじゃないから。
――あっ、そ。

 そのあと、男が小さく、まあ、いいけど?と呟いたのを、覚えている。
 あれはあたしにとってはプロポーズだった。着いて来るか、と問われたのだと思っていた。
その先入観がいけなかったのだろうか。私にとって別れは突然の、青天の霹靂で。あの時、気がつくべきだったのかもしれない。
 いい加減、潮時じゃないのか?俺たち……の言葉に。
 あいつが吐き捨てた、まあ、いいけど、の言葉の裏に。そうすれば、まさか、ぶん殴るまではしなかった。
 たぶん、だけど。
 今となっては何もかもが、憶測のヒストリー。
 頼んでいたコーヒーが、まだ運ばれても来ないのに、あいつはすぐに煙草に火を点けた。あたしがそれを嫌うのを知っていて。
 そしてまだ、あたしのカップが空になっていないのに、もう、止めないか、こんなの、と言った。
 そしてぐだぐだと御託を並べはじめた。
 ばっかじゃないだろうか。聞いちゃいない、とは思わないのだろうか。降りだした雨が窓を叩く音がうるさくて、そればかりが気になる。男のほうに意識がゆくことはない。
 もういいよ、わかったから、とにかく、出よ?そう言うと、レシートを掴んで立って行った。
 傘を広げ、そこで涙も広げようとしたあたしに、あいつは言った。今日は俺のおごりな、と。行き交う車のヘッドライトが雨滴の線を光らせる。
 二八〇円で手が切れる女がこの世に何人いると思うのか。バカと付き合った年月が惜しくなった時、私も素顔に戻ることにした。

男は殴られて、よろめいて、車道の端へ尻餅をつく。悪かった、と泣き出した男は、言わなくてもいいことまでしゃべる。
 他の女とも手を切るから、一人で赴任していくから、だからこんなことはしないでくれ。別れを言うの、本当は躊躇ったんだ。初めから言おうと思っていたら、この前言ったはずだ。
 いらいらと拳を握るあたしの髪が、芯まですっかり濡れているのに気が付かないで、まだ男は泣いている。
 泣けばあたしが許すとでも思っているんだろうか。
 あたしには母性本能なんてかけらもありゃしないのに。三年も付き合っていてそんなこともわかりゃしなかったんだろう。
 殺す価値もない男の始末がつけられなくて、髪が濡れることなど構っていられない。
 いっそノアの洪水の始まりだったらいいのに、なんて思った自分がバカみたいで。
 通り過ぎる人たちがあたしたちをそっと盗み見ている。
 ふふ、と笑う私の顔を人々はなんと思って覗いて行くのだろう。
 どうやら雨はこれからが本降りらしい。

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コメント
無題
他人の心理を推し量るってのはかなり趣味の悪い具合なんだけれども、特にこういう書き出しの作品は楽しくて仕方が無いです。
それはたぶん、作品の間尺と文章の波がいいかんじだったからなんでしょうね。
見事に裏切られた三年もの連れ合いの、なんというかささやかな裏切りって、思わずカッとなりますよね。そのあたりの描写がおいしかったです。
他所でもふれましたが、あたしにとってはプロポーズに見えたという部分、冒頭で出して、最後に回収してやる配置も悪くなかったのではとおもいます。
【2008/03/09 03:00】 NAME[アヒル] WEBLINK[] EDIT[]
Re:無題
>他人の心理を推し量るってのはかなり趣味の悪い具合なんだけれども、特にこういう書き出しの作品は楽しくて仕方が無いです。
>それはたぶん、作品の間尺と文章の波がいいかんじだったからなんでしょうね。
>見事に裏切られた三年もの連れ合いの、なんというかささやかな裏切りって、思わずカッとなりますよね。そのあたりの描写がおいしかったです。
>他所でもふれましたが、あたしにとってはプロポーズに見えたという部分、冒頭で出して、最後に回収してやる配置も悪くなかったのではとおもいます。

ありがとうございます。
仰られるとおり今度からは順番に気をつけようと思います。
【2008/03/27 09:33】


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好きな作家さんは藤子・F・不二雄、前田珠子、新井素子、吉岡平、横山信義、林譲二、橋本純あたり。
好きな音楽は海援隊などのフォーク、中島みゆきなどのニューミュージック。あとはLiaさんや新良エツ子さん、じまんぐさん、Sound Horizon(一期、二期両方)、Suaraなど。
歌じゃないのなら地中海風というかラテン風、イタリア風とテクノっぽいのやカントリー音楽。ピアノ音楽も好き。

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