萌えよ！ 軍艦学校 その１

「で、これはなんな訳？」
「いや～、最近、「萌えよ！　○○学校」シリーズが出てるじゃない？」
「戦車学校、陸自学校、空戦学校……」
「そうそう」
「いかろすぅー」
「いや、そのネタはもういいから」
「で、それに触発された作者が世界史コンテンツ形式でやってみようと思ったわけ」
「安直……」
「まあまあ、みなみちゃん」
「とりあえず今日は戦艦が戦艦になるまでを辿るよ」


「まず、作者が何度も言ってるけど軍艦と戦艦を混同しちゃ駄目だよ」
「間違いなの？」
「古代はともかく近代においては確実に間違いよ。バスは大型車だけど大型車はバスじゃないでしょ。それと同じ」
「軍艦という大きなカテゴライズの中に戦艦という小さなカテゴライズがあるわけかー」
「ホントは色々規定はあるけど、軍隊で使う船が軍艦だと思ってもらえれば間違いないと思う」
「軍艦の中でも直接戦闘に関わる艦を戦闘艦といったりもするよ。といっても、基本的には戦闘艦しかあつかわないけどね」


「軍用船の祖としてはガレー船だね」
「ガレー船？」
「両舷の櫂で進む船のことよ。といっても帆船と同じように帆がついてるのもあるけど」
「初期の軍船は火砲が発達していないせいで、白兵戦……相手の船に乗りこんで戦う、って方法だったんだよ。この方法なら船舷が低くて喫水が浅いガレー船の方が有利、ってこと」
「帆船は？」
「帆船が軍艦として発展したのは16世紀だね。ガレー船から、帆船との性質も持つガレアス船を経てより大きなガレオン船になる。ここではキャラックやキャラベルは省くよ。ガレオン船が廃れたのは火砲が発展したことが大きいんだよ」
「どーして？」
「漕ぎ手のぶん大砲やその砲手を増やした方がいいでしょ」
「あ、そっか」
「そしてガレオン船は戦列艦に発展する」
「戦列艦？　戦艦じゃなくて？」
「戦列艦は戦艦の祖先といっていいね。ワンピースとかでみたことない？　両舷に大砲がずらっとならんでるアレが戦列艦。この時代、最も優れた戦術っていうのは単縦陣だったんだよ」
「単縦陣っていうのは軍艦が一列に並んで航行することよね」
　　　　▽
　　　　▽
　　　　▽　　　　　↓　　進行方向
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「かがみんの言うとおり上の図のようなのが単縦陣。こうすることで、両舷に向けて砲の火力を最大限に発揮することが出来るってわけ。射線上に味方の艦がいないからね。戦列艦は最終的には排水量三千トン超で大砲を100門以上積んだ艦になるんだけど、これとは別の道を歩んだ艦もある。それがフリゲートといわれる艦だよ。戦列艦が戦艦の租なら、フリゲートは巡洋艦の租だね。大砲の数は20～50門と戦列艦より少ない」
「どうしてわざわざ弱い船を作ったの？」
「能力が限定されてても数が欲しかったからだよ。一番の理由は植民地だね」
「遠くにもいける、航続力の長くて安価で沢山用意できる警備艦が欲しかったわけね」
「戦闘においてはフリゲートは哨戒・連絡・通商破壊などの役割につく」
「つまり主力の補助」
「この辺は後の巡洋艦にも繋がるわね」
「で、この戦列艦なんだけど重大な欠点があるのよ。防御の面で脆弱すぎること。大砲ってのはつまりは爆発物をあつかうわけだから、あまり並べすぎると一発で轟沈、なんて可能性もあるわけ。ちなみにこの時代まで艦はあまり沈まない。攻撃力が弱かったから防御能力が弱くても問題がなかったわけだ」
「火砲が強力になることによって防御能力を上回ってその結果防御上の問題点が明らかになったわけね」
「で、戦艦、というより装甲艦は船舷に装甲防御をほどこすことによって誕生したわけ。世界初の装甲艦は1859年に建造されたフランスのグロアールだよ」
←フランス海軍グロアール
「ただし、この時点でも防御面の欠点はあった。砲がズラっと並んでいることにはかわりないわけだからね。防御しなくちゃいけない範囲が広くなって、個々の砲に対して防御を充分に行えない。この欠点を改良したのが中央砲郭艦といわれるもの。軍艦の中央に搭載砲を集中させる形式」
「ちゅーおーほーかくかん？」
＼ 　／
 　○
／ 　＼
「軍艦の中央に上のような砲郭（ケースメート）……装甲で覆った大砲の部屋を配置するんだよ。個々の砲はノの字のように回転させることが出来るから従来の砲よりも広い斜角がとれて、大砲を沢山積んだ艦よりも攻撃能力の面において寧ろ有効に働くね」
「中央砲郭艦として有名なのはなによ？」
「日本海軍で初めて戦艦になった初代扶桑は中央砲郭艦だよ。ただ、他の列強の排水量の半分以下しか持ってなかったし、戦艦になったのは寧ろ政治的な意味合いが大きいけどね」
「そういえば、日本はそれまで戦列艦を持たなかったの？」
「持ってなかったね。これは大名が500石以上の船を作れなかったから。ちなみに500石は水のトン数に直すと約90tだよ」
「立ち遅れてるわね」
「もっとも、これは大名に限ったことだから、商人たちは許された。実際、1500石ぐらいの船は作られてるよ。といっても、軍艦とは違って商船には適当な大きさってものがあるから余り発展はしなかったけどね。日本においては近代と近世以前の船は分けて考えた方がいいかもしれないね」
「それから中央砲郭艦の時代になるの？」
「ところがどっこい、中央砲郭艦の時代は長くは続かなかった。南北戦争が発生することによって装甲艦はついに戦艦へと進化する」
「1861～1865年の間に起きたアメリカの内戦ね」
「そう。途中経過については違う人がやってるから省くけど、この戦争で活躍したUSSモニターなんかは旋回砲塔だったんだよ。旋回砲塔ってのは、砲郭における砲があくまで砲が動くのに対して、砲塔そのものが回転して動くもの」
←USS　モニター
「随分船舷がひくいねー」
「というか、不恰好ね」
「進化する途中の艦だからね。その辺は仕方ないよ」
「ちなみに、モニターはその後モニター艦の語源になっている」
「みなみちゃん、よく知ってるね。でも今はモニター艦についての説明は省くよ。とにかく、この戦争で旋回砲塔が有効なことがわかった。これを吟味して1892年に誕生したのがイギリス海軍の戦艦『ロイヤル・ソブリン』だね。これが近代戦艦の嚆矢となったわけ」
←HMS　ロイヤル・ソブリン級八番艦　フッド
「数百年を経てやっと近代的な戦艦が誕生したわけね」
「今日はここまでにしとくよ。次回は弩級戦艦の誕生をピックアップするよ」



なお、今回以下のサイトよりアイコンおよび画像を使用させていただきました。
モアイ部さま