シーサイド・コーポラス

昔書いた小説を投下……中島みゆきさんのシーサイド・コーポラスから。

我ながら意味が判らん……orz

　ちゃぷちゃぷと外から微かに波の音が聞こえてくる。
　部屋にほのかに漂うのは油絵の具の匂い。
　部屋の片隅を小ねずみが走り抜けるのが見える。僕の唯一の同居人だ。
　だけどもうすぐ、この部屋は彼だけのものになるのだ。

　小さいころから僕は絵を描くのが大好きだった。
　中学生のころはもちろん、美術部。うまいとは思っていなかったが、家に飾れるほどにはうまくなったと思う。
　高校には入学したが、入ってすぐにやめてしまった。絵を描くためだ。
　父も母も厳格な人だった。当然「絵を描いて暮らしたい」などという僕の意見を聞いてくれるはずもない。
　僕は、家出同然にあの家を飛び出した。

　『コーポラス・みなと』
　それがこのアパートの名前だった。
　家を出てから一年の月日が流れた。
　いろんなところを転々とした後、僕は不意に海が描きたくなった。
　幸いなことに、今までアルバイトをしたり路上で絵を売りしてためたお金が十分にあった。
　不動産屋に無理を承知で頼んだこのアパート。
　家賃は一万二千円。畳のあちこちにはしみができている。海辺にあるので、鉄でできたドアもさび付いてたてつけが悪い。
　外から漂ってくるのは潮の香りと波の音。それに魚の脂の匂いと飲み屋小路のおかみさんの声だけだ。
　部屋ではねずみが走り回っている。
　とても落ち着く。ここでならゆっくりと絵がかけそうだ。

　更に六ヶ月がたった。
　相変わらず外からは魚の脂の匂い。
　もう十分だった。
　小さいころからの夢だった、絵を描いて暮らすこともかなえることができた。
　海の絵が書きたかったが、それもこの半年の中で何十枚も書くことができた。
　この小さな同居人のことだけが唯一の不安だが、彼は彼できっと僕が来る以前のように気ままにやっていくだろう。
　もう満足だ。夢は叶える事ができたんだから。
　僕はゆっくりと天井からぶら下がった縄に首を通しそして。
　最後に静かに踏み台をけった。